少子高齢化や貧困、環境問題などの社会課題が山積し、国や自治体が対応するだけでは追いつかない時代になった。そこで、民間の企業などが社会課題の解決を目指す「ソーシャルビジネス」が存在感を増す。治田友香さん(57)は、まちで働き、暮らす人たちの気づきこそが大切だと考え、横浜を拠点にソーシャルビジネスを育てる活動に取り組んできた。
横浜市の官庁街近くで、古いビルの空室だった1、2階に「mass(マス)×mass(マス)関内フューチャーセンター」(マスマス)がオープンしたのは、東日本大震災が起きた2011年3月11日だった。
ビルがある関内周辺はかつて横浜一のにぎやかな街だったが、人の流れが横浜駅周辺やみなとみらいに移り、停滞が続いてきた。市は活性化を図ろうとモデル事業を募り、治田さんたちが提案した「ビルの空きテナントを起業支援の拠点に」という計画が採用された。
マスマスの運営会社には、市内外の企業20社が100万円ずつ出資した。創設メンバーだった治田さんは13~24年に社長を務めた。
「横浜は東京よりコンパクトで顔が見える関係をつくりやすい。なかでも関内は狭い範囲に官公庁や盛り場、簡易宿泊所が並ぶ一角もあり、都市の魅力も課題も集まっている。ソーシャルビジネスを支援するならここで、と思った」
支援の柱の一つがソーシャルビジネスを起こすためのスタートアップ講座だ。市の委託で開き、無料で全10回受けられる。
資金をどう調達し、事業計画をどう立てるかなど、必要なスキルを専門家らが教える。企業をつくるのか、NPOを立ち上げるのかなど目指す事業形態で手続きも違うため、起業への道筋も整理する。
オープンから14年間で、スタートアップ講座を修了した人は1500人を超え、そこから起業した人は170人になった。講座で顔を合わせた人どうしが意気投合し、新しいアイデアを生むこともある。
古いビルは、座って自由に仕事ができるラウンジ、かぎをかけられるミニオフィス、小さなイベントを開けるスタジオなどに生まれ変わった。会員登録した人らに貸し出すことで賃料収入を得ながら、いろいろな発想を持つ人たちが「集う場」を提供する。
会員などの利用者は社会課題の解決を目指す企業やNPOだけではない。IT関連の企業、建築やデザインの事務所など多彩だ。一つのコーナーごとにオーナーがいて、それぞれが個性的に選んだ本を並べるユニークな書店もできた。
「社会課題に気づいた人が専門性のある人や立場の違う人と対話し、解決に向けた陣容を整える出会いの場にしたかった」
外資系IT企業を退職した男…